後藤允良税理士事務所

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会社設立をする流れ、手続きについては法律で定められています。どのような事業をするのか、どのようなメンバーで起業するのかは自由ですが、法人格を得て会社として活動をするのであれば、以下で紹介する設立手続を適法に進めなくてはなりません。
また、手続きを進める上で準備が必須のものもありますし、手続き後に提出が求められるものがあるなど、起業者の負担は大きいです。できるだけスムーズに進められるよう整理しましょう。

基本的な会社設立手続きの流れ

細かく挙げていくと非常に多様な手続きを説明しなければなりませんし、設立する会社によって具体的にすべきことが異なるケースも多いです。
そこでここでは、法律上求められている、基本的な手続きについて流れに沿って解説していきます。

定款の作成と認証

発起人による「定款の作成」および当該定款に対する「公証人の認証」が必須です。
なお、発起人は簡単にいうと起業者のことであり、これを会社法上発起人として定義しています。

この発起人は、会社の基本原則・根源的方針となる定款を作るのですが、複数人の発起人がいる場合にはその全員で内容を決めなくてはなりません。作成した定款に対しては全員が署名または記名押印します。
そして、効力を生じさせるには公証人の認証を受ける必要があります。

なお、認証を受けた後でも、内容を変更できるケースがあります。
発起設立においては「変態設立事項という特定事項につき裁判所の変更決定があったとき」と「発行可能株式総数の定めに関すること」に限り、認証後から会社設立前の間に変更が可能です。
他方、募集設立に関してはこれらの事項に限らず、創立総会の決議を経ることで変更が可能です。

もちろん、設立後でも株主総会の特別決議を要しますが、変更自体は不可能ではありません。

設立時発行株式に関する事項の決定

定款では少なくとも「目的」や「商号」「本店所在地」「出資財産の価額」「発起人の情報」等を定めることになりますが、設立時発行株式の数や資本金額については原始定款にて定める必要はありません。定款の認証を受けてからでも設定可能です。

しかしながら設立時発行株式に関する事項の検討は欠かすことができません。

なぜなら、公開会社においては「発行可能株式総数に対する設立時発行株式総数の割合」に関して満たすべき水準が法定されているからです。設立する株式会社が公開会社であれば、発行可能株式総数の4分の1以上を設立の時点で発行しないといけないのです。

なお「発行可能株式総数」も原始定款にて定める必要はありませんが、設立までには定めなくてはなりません。

設立時発行株式の引受けと出資の履行

設立時発行株式について内容を決定すれば、続いて発起人による株式の引受けと出資の履行をしましょう。
この時点ではあくまで発起人による引受けと出資であり、投資家はまだ存在していない段階です。発起人にも出資が求められています。

設立時取締役の選任

続いて設立時取締役の選任を行います。
なお、ここからは設立の方法によって手続き内容が大きく変わってきます。

比較的シンプルな方法である「発起設立」であれば、発起人が誰にするのか決めれば良いです。

しかし投資家による出資を募る場合には「募集設立」として、設立時募集株式の募集から申込み、割当てを先に行わなければなりません。そこで、発起人が設立時募集株式に関する事項を決定し、募集を行います。これに対して引受人が登場すれば、発起人が引受人に対して割当てをし、その内容に応じた払込みをしてもらいます。
そして、ようやく設立時取締役の選任手続きを進められるようになります。この段階に至るともはや利害関係人は発起人に限られませんので、創立総会を開き、全員が関与した上で選任を行います。

設立登記

最後に設立登記も必要です。
これにより法人格が与えられ、会社として成立します。発起設立でも、募集設立でも、株式会社でなくても必要な手続きです。

会社設立で最低限準備するもの

各種手続きを進める上で準備すべきものがあります。主に費用と書類、出資金です。

設立費用

設立費用が用意できなければ設立できません。
定款の認証に要する費用、設立登記にかかる登録免許税、また検査役の調査を経た場合には検査役に対する報酬も必要です。
ただし、これらも莫大な費用を要するわけではありませんので大きな問題となることはないでしょう。

むしろ重要なのは、法令に則った取扱いをするということでしょう。実際には必須の設立費用に加え事務所の賃貸料や弁護士、司法書士、税理士等に支払う報酬なども発生しますので、設立費用は会社財産を害するおそれがあるものとして捉えられています。そこで、株主や債権者の利益を保護するため、定款に記載した上で検査役の調査を受けることが原則とされています。
しかし例外的に、定款の認証手数料や金融機関に支払う手数料、登録免許税などは定款に記載する必要がありません。

資本金

資本金の準備も必須です。
ただし従来定められていたような基準額は設定されておらず、低額でも設立は可能です。

しかしながら、許認可を得ようとする事業によっては、その制度上の資本金要件が設けられていることもあります。よって、少なくとも事業内容と照らし合わせた資本金設定が必要でしょう。

また資本金額は対外的な評価にも関わってきますので、特に債権者との関係性には配慮の下具体的な金額を決め、これを用意しておきましょう。

各種手続きの必要書類

書類も多く用意しなければなりません。
例えば会社を成立させるために登記が必須過程とされていますが、登記をするには「登記申請書」の作成・提出が必要です。さらに登記申請書に対する添付書類もありますので、申請時には要チェックです。また、「登録免許税納付用台紙」として、収入印紙を貼付してこれも提出します。

他にも以下の必要書類があります。

法人設立届出書の提出も忘れずに行う

株式会社など法人を設立すれば、その後税務署へ各種書類の届出も行わなければなりません。
必要に応じて「青色申告の承認申請書」や「棚卸資産の評価方法の届出書」「減価償却資産の償却方法の届出書」などを提出することになりますが、以下の届出書は必須ですので注意しましょう。

納税の義務を果たす前提として、会社を設立したことを税務署に知らせる役割を果たします。
なお、「設立登記をしてから2ヶ月以内」という提出期限が設けられていますので、期限を過ぎないようにしましょう。

法人設立届出書には「法人名」や「所在地」「納税地」「代表者名」「資本金額」「事業目的」「関与税理士」といった項目を記載していきます。

税金関連では法人設立届出書のほか、源泉所得税や消費税関係で必要書類が発生しますので、手続きに困ったときには税理士に相談すると良いでしょう。

会社を設立する際の重要な決定事項の一つに「資本金額の決定」があります。
この金額はどのように決定すべきかご存知でしょうか。実は設立する会社によって考慮すべきポイントは異なっており、特に慎重になるべきケースと比較的緩やかに考えても良いケースとがあります。
以下では、設立時の資本金額設定において着目すべきポイントについて解説していきます。

基本的に資本金は何円でも良い

まず基本となるルールについて理解しておきましょう。
大前提として、会社にとって資本金の設定は必須です。登記事項でもありますし、会社設立を考えている方が、資本金については考えない、あるいは資本金は設定しないという選択肢は取り得ません。

ただ会社法にて、一般に「資本金額は〇〇円以上必要」などと定められているわけでもありません。そのため他のルールは無視して会社設立のみに着目した場合、資本金は1円でも良いと言えます(旧制度では原則として300万円以上の資本金が求められていた)。

なお、資本金が1円でも良いという言葉の意味は、厳密には「出資の最低額が1円」であるということです。設立に際して株主が払い込み・給付をした財産の額が資本金額とされる旨会社法第445条1項に規定されています。

(資本金の額及び準備金の額)
第四百四十五条 株式会社の資本金の額は、この法律に別段の定めがある場合を除き、設立又は株式の発行に際して株主となる者が当該株式会社に対して払込み又は給付をした財産の額とする。

引用:e-Gov法令検索 会社法

会社設立時の資本金額を決めるポイント

上の通り基本的には何円にしても良いのですが、この金額が大きく影響を及ぼす事柄もあります。そこで、主に以下4つのポイントから考えていくと良いでしょう。

  1. 事業の許認可を得るための要件
  2. 必要な運転資金・設備投資の大きさ
  3. 会社の見映えや信用
  4. どれだけの節税効果を狙うか

事業の許認可を得るための要件

ポイントの1つであり、その中でも最も重要なのが「事業の許認可を得るための要件を満たせるかどうか」です。
事業の内容によっては法令上許認可を得ることが求められている分野があり、資本金額が一定以上なければならないケースがあります。
そのため許認可を要する事業を行う予定なのであれば、その要件に資本金が指定されていないかどうかをまずはチェックすべきです。

このポイントに関しては、他のポイントと異なり必ず考慮しないといけません。
例えば以下のように業種ごとの基準が設けられています。

法改正などにより変動する可能性がありますし、同じ業種の中でも細かく分類がなされ、それぞれに満たすべき資本金額が異なることもあります。そのため各許認可に対し事前に最新情報を確認しておくべきです。

必要な運転資金・設備投資の大きさ

設立後の事業内容によっては設備を備える必要がありますし、設備投資やその後の運転資金が多く必要である場合には、資金不足に陥らないようある程度の資本金を備えておく必要があります。
そこでこれら初期費用が大きいと予想される場合には、その分も見越した資本金額を設定した方が良いでしょう。
なお、その初期費用分すべてを資本金としてカバーする必要はありませんので、借入金なども併せて検討すると良いです。

また、それほど大きな金額ではありませんが、資本金は設立費用にも影響します。
例えば株式会社の設立費用としては、定款に貼付する印紙代や認証の手数料などが発生するほか、資本金の額に応じた登録免許税や株式払込事務取扱手数料なども発生します。

会社の見映えや信用

資本金は会社の基本情報としてWebサイト上でも掲載することが多く、取引先や一般の方も見る機会が多いです。
そのため、会社の見栄えや信用問題に関わる可能性があります。昔ほど資本金の額が信用と比例するわけではありませんが、極端に少ないと良くない印象を持つ人もいます。
また会社債権者にとっては、資本金の大きさが取引に際しての担保に近い形で機能することになるため、営業をスムーズにする上でも一種の指標になると考えられます。

とはいえ無理に資本金額を大きくする必要性はありませんし、後述の課税の問題なども生じるためバランスを考える必要があります。そこで同業者や同じ業界内での相場を参考にしましょう。
業界問わずよくある資本金の額としては「100万円」「300万円」「500万円」が挙げられます。運転資金が必要なく、単に法人格を得る目的で会社設立したというケースでは「10万円」に設定することも珍しくありません。

どれだけの節税効果を狙うか

資本金の大きさによって課税の程度も変わります。
そのため節税効果も考慮して金額を決めると良いでしょう。
傾向としては資本金額が小さいほど税制上の優遇措置が受けられますので、許認可等の考慮をする必要がないのであれば、多くの優遇措置が適用される基準内で設定すると効果的です。

細かくは次項で説明しますが、節税の効果が大きく変わる境目は1,000万円です。「1,000万円未満かどうか」によっていくつかの課税内容が変わってきますので、節税の観点から言えば意味なく1,000万円に設定することは避けるべきでしょう。

資本金で変わる税金の種類

資本金が影響する税金は「法人税」「消費税」「法人住民税の均等割」です。

法人税

法人税は課税所得に応じて決まるのですが、資本金が1億円以下の法人であれば、「課税所得800万円分まで軽減税率の適用」を受けることができます。

※資本金5億円以上の親会社を持ち、その100%子会社に対しては適用なし

詳しくはこちらを参照

国税庁「No.5759 法人税の税率」

また法人税に関連するものとして、交通費等の損金算入可否についても触れておきましょう。
ここで言う「交際費等」とは、交際費や接待費などの費用であって、「法人が取引先や仕入先その他事業上の関係性を有する者に贈答や接待、慰安、これらに類する行為をするために支出したもの」を意味します。
この交際費等についてどこまでを損金として算入できるのか、細かくルールが定められています。原則として全額が損金不算入の扱いを受けるのですが、資本金が1億円以下であれば、「交際費等800万円までを損金算入できる」という措置が取られています。

詳しくはこちらを参照

国税庁「No.5265 交際費等の範囲と損金不算入額の計算」

消費税

消費税に関しては、特例として、新設法人について資本金1,000万円であれば設立後2年間は免税されます。
なお、1年目上半期の売上が1,000万円を超える場合などには2年目から課税される可能性はあります。

詳しくはこちらを参照

国税庁「No.6503 基準期間がない法人の納税義務の免除の特例」

法人住民税の均等割

法人住民税は「法人税割」と「均等割」の2つから構成されています。
法人税割は、法人税額を基準に算定するもので、売上が大きい企業ほど課税額が大きくなる傾向にあります。
これに対し均等割は資本金等を基準に算定するもので、さらに「都道府県民税」と「市町村民税」の枠に分かれます。資本金や従業員数に応じて、下表のように段階的に納税額が決められています。

 

資本金等の額 都道府県民税

市町村民税

(従業者~50人)

市町村民税

(従業者50人超)

~1,000万円 2万円 5万円 12万円
~1億円 5万円 13万円 15万円
~10億円 13万円 16万円 40万円
~50億円 54万円 41万円 175万円
50億円超 80万円 41万円 300万円

 

詳しくはこちらを参照

総務省「法人住民税」

資本金の額はバランスを考えて検討することが大事

資本金は基本的に自由に決定しても良いのですが、節税や運転資金のことなども考慮して、バランス良く設定することが大事です。
また当然、許認可を得て事業をしようとしているのであれば最低基準をクリアしなければなりません。

さらに、取引先等が見たときに不安を抱くような極端に低い金額も避けた方が無難です。
会社設立にあたっての資本金の要件は撤廃され、今では信用を得るためにかつてほど重要なものとは捉えられていませんが、老舗企業や大企業との取引を始めようとするのであればある程度の金額は用意したほうが良いでしょう。

節税の効果を高めようと考えるのであれば、税理士に相談して、最も効果的な金額設定を考えていくことがおすすめです。

「個人事業主」とは、自然人である1人の人間を主体とした事業形態を指します。
これに対して「法人」とは、自然人という現実に存在する人間ではなく、手続を経て作られる法律上の人格のことを指します。
どちらもビジネスを遂行する主体ですが、コストや運営方法など、様々な差異があります。この記事で、個人事業主と法人には具体的にどのような違いがあるのかをまとめていきますので、事業立ち上げの参考にしていただければと思います。

違い①:開業までの手続

法人と個人事業主、両者には開業段階から大きな違いがあります。
比較的立ち上げが簡単な個人事業主に対し、法人の場合には起業者がしないといけないことが多数に及びます。

個人事業主は開業届を提出するだけ

まずは個人事業主の立ち上げについてです。

個人事業主の場合、税務署に対して開業届(厳密には「個人事業の開業・廃業等届出書」)を出せば、最低限の手続は終了します。
負担すべき費用もありません。開業届に当人の情報や事業内容など基本的な情報を記載し、開業から1ヶ月以内にこれを提出して「これから個人事業主として活動する」旨を税務署に伝えます。

ただし、青色申告で確定申告を行いたいなど、税法上の諸制度を活用する場合には下表のように届出を行う必要があります。

提出書類 提出先 提出期限
青色申告にする 「所得税の青色申告承認申請書」 納税地の税務署 開業から2ヶ月以内

※1月1日~15日の開業なら3月15日まで

青色事業専従者給与を支払う 「青色事業専従者給与に関する届出書」
従業員に給与を支払う 「給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書」 給与支払事務所等の所在地の税務署 給与支払事務所等を設けてから1ヶ月以内

その他詳しい情報についてはこちらも参照すると良いでしょう。
国税庁「個人で事業を始めたとき/法人を設立したとき」

https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/html/07_3.htm

法人は定款・出資・登記が必要

法人の場合、「定款の作成」から「出資の履行」、そして「登記申請」などの手続を進めていなかくてはなりません。

株式会社を例に説明します。
まず発起人と呼ばれる起業者が全員で定款を作成することになります。定款は会社の根本原則であり、社名や本店の所在地、事業内容などを定めます。
発起人は1つ以上の株式を引き受けなければならず、各人出資の履行を行います。発起人だけが株式を引き受ける場合の設立手続は「発起設立」と呼ばれます。これに対して発起人以外の出資者を募る場合の設立手続は「募集設立」と呼ばれ、設立時株式の引受人を募集や引受人の出資の履行に係る手続なども発生します。
取締役などの役員を決めたあと、最後に登記申請が必要です。会社の存在を公示する制度であり、登記が完了することによって法人格は付与されます。

ざっと流れを示しましたが、各ステップでやるべきことはたくさんあります。個人事業主をスタートさせる場合に比べて大きな手間がかかるでしょう。

また、個人事業主が開業届を提出するのと同様に、法人も「法人設立届出書」を税務署に提出しなければなりません。提出期限は法人の設立後2ヶ月以内です。
その他、報酬や給与を支払う場合や青色申告で申告する場合、源泉所得税の納期の特例を受ける場合など、税法上の諸制度を活用するのであれば別途税務署に対し届出を行う必要があります。

詳しくはこちらを参照すると良いです。
国税庁「個人で事業を始めたとき/法人を設立したとき」
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/html/07_3.htm

また、必要な手続が増える分、手数料等で設立費用の負担もかかります。
設立する会社形態にもよりますが、おおむね2,30万円ほどはかかると考えておく必要があります。

違い②:ランニングコスト

法人と個人事業主では、ランニングコストにも差が出てきます。
この差は、各々課税される税目や税率が異なっていること、経費として含められる費用の幅が異なっていることに由来します。

税目と税率が違う

法人には「法人税」が課されますが、個人事業主は法人ではありませんし、事業から生じる利益は個人の収支に関わるため、「所得税」が課されます。
法人税の場合、資本金の額や所得によっても変わってきますが、最大税率が23.2%です。しかし所得税では累進課税制度が採用されており、所得が大きくなるほど適用される税率が高くなってしまいます。

最低税率は所得税の方が小さく、その他住民税との兼ね合いもあって、利益が小さなケースでは個人事業主として活動している方が税金に着目したときのランニングコストは小さくなります。
しかし利益が大きくなってくると所得税の税率が大きくなり、最大税率が小さい法人税の方がお得になってきます。そのため事業の規模が大きくなり売上や利益が相当に膨らんできたのなら、法人として活動した方がランニングコストを小さくできます。

住民税に関しても法人の方が最低額は大きいため、売上も利益も大して出ていない状況だと法人として活動する方が圧迫されてしまいます。

経費の範囲が法人だと広い

法人であっても個人事業主あっても、事業のために必要な費用は、基本的にすべて経費として計上できます。

家賃や水道光熱費、通信費、自動車代、ガソリン代、駐車場代、その他様々な費用が経費として計上できます。経費として計上できるということは売上から控除できる額が増えるため、課税所得を小さくできます。結果として納税額を低く抑えることに繋がるのです。
そのため同じ支出が生じているのなら、できるだけ経費計上できた方がランニングコストは下げられることになります。

この点、法人の方が有利とされています。
法人の方が広く経費に含めることができるからです。例えば個人事業主の場合、自身の収入を経費計上することはできません。これに対し法人だと給与所得として経費に計上させられます。賞与、退職金についても経費計上ができるため、仕組みを理解して上手く設計すれば大きな節税効果が得られるでしょう。

ただし事業に関連があるからといって何でもかんでも経費として計上していると税務署から指摘を受ける可能性があります。法令に抵触してはいけませんし、脱税の疑いをかけられないよう、節税対策を講ずるときは税理士に相談してから取り組むようにしましょう。

違い③:社会的信用

社会的な信用は個人事業主よりも法人の方があると考えられています。

個人事業主でも信用がないわけではありませんし、昨今フリーランスが増えており珍しい存在でもなくなっています。そのため業界や業種によってはあまり気にしなくても良いかもしれません。

とはいえ規模の大きな取引を行う場合や企業の重大な情報を取り扱う仕事の場合、社会的な信用の有無が取引成立に大きく影響してきます。
法人の場合厳格な手続を経て設立されていますし、事業が安定しているとの評価も受けやすいです。そのため比較的信用を獲得しやすく、大きな取引を始めるのに適しているといえるでしょう。金融機関からの融資も受けやすくなり、その資金により大きな事業もスタートさせやすくなります。

違い④:運営方法

法人と個人事業主には、運営の方法にも大きな差があります。

意思決定の方法

個人事業主の場合、従業員がいることもありますが、意思決定は個人事業主が行います。自分の判断で、自分の好きなように決断して運営していくことが可能です。

これに対して法人の場合、意思決定をするにも所定の手続を行わなければならないなど、自由度の面で劣ります。個人事業主ほど迅速な意思決定をするのも難しくなります。
例えば株式会社だと取締役間で協議を行い、議事録を作成するなどの手間もかかります。より重大な決断をする場合には株主総会を開いて株主の同意を得ないといけません。

さらに、意思決定の影響を受けて定款の変更手続や登記申請の手続が必要になることもあります。

社会保険加入の義務

個人事業主だと国民年金に加入するケースが多いですが、法人だと厚生年金に加入します。厚生年金の保険料は国民年金の保険料より高いのが一般的ですが、その分将来の年金は多くなります。

個人事業主でも従業員を雇ったときには社会保険への加入をすることになりますが、常時5人に満たない人数しかいないときには加入が義務とはなりません。
しかし法人ではすべての役員および従業員に社会保険への加入が義務付けられています。

経理事務の内容

法人も個人事業主も、経理事務は発生します。
しかし記帳や税務申告、給与計算等に係る経理事務の負担は個人事業主の方が小さい傾向にあり、会計ソフトを利用して簡単に申告書が作成できることもあります。

これに対して法人に係る経理事務は複雑で、税理士に依頼して対応するケースが多いです。
税理士に依頼する事務の範囲が広いほど依頼費用も高くつきますが、その分事務の効率が向上し、本業に専念しやすくなります。また、日常的に会社の状況を把握してもらうことでより的確な税務上のアドバイスを受けることができますし、資金繰りやその他財務に係るアドバイスも受けられるようになり、高い費用対効果が期待できます。

所得税の額は、国民が自ら所得の内容を申告することで定まります。そしてその申告方法には青色申告と白色申告の2つがあります。同じ所得の大きさでも、選択した申告方法によって納付すべき所得税の額が変わることもあります。
ここではこの確定申告について言及し、2つの確定申告方法の違い、節税効果について解説していきます。

確定申告とは

確定申告は、“1月1日~12月31日までの1年間の所得を申告し、この所得に課税される所得税を計算・精算するための手続”です。

日本では納税者自身が計算と申告をしなければなりませんので(申告納税制度)、待っていれば勝手に税務署から通知が届くという仕組みになっていません。
確定申告を行うべき方がその作業を行わないと、無申告により脱税になってしまいます。

計算対象になる所得の期間は上記の通りですが、申告期間は翌年の2月16日~3月15日です。終期である3月15日までに所得税の納付も済ませなければなりません。
この期間に間に合わない、納税しない、納付額が足りない、という場合にはペナルティを課されることもあります。

なお、確定申告をする方法として、①青色申告と②白色申告の2つがあります。
①は申告作業が大変になるもののその分大きな節税効果が得られる、②は申告作業が楽だが節税効果は小さい、という特徴を持ちます。
両者の詳細について、以下で説明していきます。

青色申告について

青色申告は、事業所得や不動産所得などがある、個人事業主・フリーランス等が主に選択している申告方法です。1年間の取引内容を詳しく記録するために帳簿を作成し、細かく所得に関わる情報を記していることが前提となります。

そこで作成すべき、保存すべき書類は増えますが、その分様々な税制上の優遇措置が受けられ、節税の効果を高めることができるという利点も持ちます。

青色申告をするための手続

青色申告として確定申告を行うためには、所定の公的な手続を行う必要があります。

1つは「開業届」の提出です。
もう1つは「青色申告承認申請書」の提出です。

いずれも税務署に対して提出します。

青色申告承認申請書の提出は、原則として、“申告対象となっている年の3月15日まで”に行わなければなりません。ただ、この時期以降に開業するケースもあるでしょう。この場合でも“開業から2ヶ月以内”に提出すれば問題ありません。
青色申告を考えている方が開業をするのであれば、開業届と一緒に青色申告承認申請書も作成して提出しておくと良いでしょう。

青色申告における記帳

青色申告の場合、原則として「正規の簿記の原則」に従い記帳を行わなければなりません。
簡易簿記による記帳でも良いのですが、一般的には「複式簿記」による記帳を行います。複式簿記で行うことにより大きな節税効果が得られるようになるからです。

複式簿記は簡易簿記より記帳が複雑化し、多少の会計知識は必要となります。ただし、税理士に求められるレベルで知識を備えていないと記帳ができないというわけではありません。簿記2,3級程度の知識を持っていれば問題なく記帳できるでしょう。

会計ソフト内でも親切に記帳方法のフォローがされており、使い慣れれば効率的に記帳を行うことができるようになります。そのため記帳に関する知識を持っている方も、そうでない方も、会計ソフトを導入しておくことが推奨されます。
その上で、税理士に最終チェックを任せると安全です。
「経理担当がいない」「本業に集中したい」という方は、記帳作業から税理士に任せておけば面倒な作業に悩む必要もなくなります。

白色申告について

青色申告によらない確定申告は白色申告となります。
帳簿の作成や保存が簡素化され、会計に係る作業負担は小さくて済みます。ただし税制上の優遇措置が受けられないため、本格的に事業を営んでいる方が選択すべき申告方法とはいえません。

白色申告をするための手続

青色申告と異なり、白色申告をするために別途手続を行う必要はありません。
開業届も申請書類なども準備しなくて良いです。青色申告をするために必要な手続をしていない方はすべて自動的に白色申告となるからです。

白色申告における記帳

白色申告では「単式簿記」で良く、簿記や会計の知識がなくても記帳に困ることはあまりありません。

単式簿記による記帳は一般的な家計簿に近い形で記載すれば十分で、1つ取引に対して、1つの勘定科目に絞り収支を記録すれば十分です。
収入の合計と支出の合計を見れば全体としての収支バランスが簡単に読み取れます。

ただし単式簿記では、現金の増減以外の詳しい財政状況までは把握できません。

節税効果を期待するなら青色申告

上述の通り、青色申告の方が節税効果は大きいです。

この差を生む大きな要因は「青色申告特別控除」です。
“複式簿記でかつe-Taxによる電子申告とした場合、最大65万円の控除が適用できる”という仕組みになっています。
“e-Taxを利用しない場合でも、複式簿記で記帳しておけば55万円の控除が適用可能”です。
簡易簿記だと控除額が10万円にまで小さくなってしまいますので、青色申告であることの利点が活かしきれません。

ただ、ほかにも青色申告であることで得られる節税効果はたくさんあります。
例えば家族に対する給与を全額経費に計上できますし、最大3年間は赤字を繰越すこともできます。

さらに、減価償却に係る特例も利用できます。
白色申告だと、10万円以上する固定資産(PCや自動車など)に対し、使用可能な期間に対応した減価償却をしなければなりません。
これが青色申告なら、30万円未満の固定資産に限り、一括経費として計上することもできます。特定の年で経費を大きく計上して所得を抑えたい場合にはこの特例が役に立ちます。

その他、青色申告だからこそ適用可能な特例等を駆使すれば、課税所得を大きく下げることも不可能ではありません。具体的な節税のテクニックについては税理士に相談してみましょう。

「今契約している税理士の方に不満がある」「何だか相性が合わない」など、様々な理由で税理士を変更したいと思うこともあるでしょう。変更自体は可能なのですが、そのタイミングには注意する必要があります。
この記事では税理士変更を避けるべきタイミングと、変更に際してトラブルが発生しないために押さえておくべきポイントを紹介していきます。

税理士変更を避けるべきタイミング

「決算直前」と「税理士事務所の繁忙期」はできれば税理士変更の申出を避けましょう。
これは税理士側だけの都合ではなく、自社の利益のためでもあります。

それぞれの理由を以下で説明していきます。

決算直前

決算業務は短期的に行うより、日常的に会社の状況をチェックし、関係性が出来上がっている方が適切にこなすことができます。
そのため決算直前に新たな税理士に依頼を申し出ても快く受け入れてくれるとは限りません。また依頼することができても、十分な調査期間が確保できないことから仕事の質に問題が生じるおそれもあります。

よって、緊急で税理士の変更をする必要がないのであれば、決算時期から余裕をもって変更に取り組むようにしましょう。

税理士事務所の繁忙期

決算時期でなくとも、税理士事務所には繁忙期があります。
多くの税理士事務所では、年末調整のある12月頃、確定申告のある2,3月頃、そして会社の決算の関係から4,5月も忙しくなることが多いです。会社の決算時期に関しては確定申告のように一定の時期で揃えられているわけではありませんが、多くは3月決算であるため申告をしなければならない4月から5月頃が忙しくなりやすいのです。

税理士変更に適したタイミング

消去法で考えれば、上に挙げた時期を避けた年明け、夏や秋頃が変更に適したタイミングであると言うことができます。

そのほかに、タイミングに関して言うなれば、法人税の申告を終えた時期を挙げることもできます。

自社における税務が一区切りつくタイミングであり、切り替えがしやすいと考えられます。
なお、法人税の申告は事業年度の終了から2ヶ月以内とされています。よって、仮に3月末決算の会社なら、6月頃が変更に適していると言えます。

トラブルを避けるためのポイント

税理士変更を申し出ることで、変更したいと考えている税理士との間でトラブルが発生することもあります。こうしたトラブルを避けるためにはどのような点に注意すると良いのでしょうか。押さえておくべきポイントを紹介していきます。

余裕ある変更計画

変更に余裕をもって取り組むのが基本です。できるだけ計画的に税理士変更に取り組むべきです。

急に変えようとすると、上でも述べた通り決算業務が適切にできないなど業務に支障をきたすおそれがあります。また、急に新たな依頼先を探しても、すぐに自社に合った税理士が見つかるとは限りません。変更の申し出を先走ってやってしまうと、税理士がいない空白の期間ができてしまうかもしれないのです。

そのため自社にとってベストと思われる時期まで待ち、その間に信頼できる新たな税理士探しに努めましょう。

しかしながら「依頼していた税理士がきちんと仕事をしてくれない」「税理士が不正をはたらいている」など特段の事情がある場合にまで無理にタイミングを待つ必要はありません。ベストタイミングを待つことによるリスクの方が大きいのであれば急であっても変更を進めると良いです。

変更したい税理士との対応

税理士側の非を理由に変更したい場合でも、極力穏便に変更手続を進めるべきです。
変更を申し出る際の態度によって相手方との関係性が悪化するおそれがあります。「これからは繋がりを持たないからいいや」などと考えるべきではありません。
解約後であっても、当該税理士が担当していた時期に関する税務調査が入ると、再びその税理士とのやり取りが生まれることもあります。

また、未だ相手方が管理している書類がある場合には要注意です。
万が一書類を回収し切れないといった事態が起こると、会社に損害が生じる可能性もあります。
このようなときには税理士会に相談して対応してもらうことも可能ですが、できるだけ無用な揉め事は避けるよう行動すべきです。

新たな税理士との対応

変更したい税理士との対応だけでなく、新たな税理士とのやり取りもポイントになってきます。

これまでの税務の引き継ぎが必要で、これをスムーズにするには、税務に関する書類を整理しておきすぐに引き渡すことができる状態にしておくことが大切です。
また、依頼したい内容もまとめておきましょう。どのような業務をどの程度頼むのか、決算書類の作成や申告作業だけで良いのか、それとも日常的に節税対策や資金繰りに関することなどのサポートも受けたいのか、その税理士にして欲しいことを伝えられるようにしておきます。

この作業を先に行っておくことで、新たな依頼先の選定もしやすくなります。
自社が求めていることと、依頼先が強みとしていることが合致しているのがベストです。ホームページなどを確認し、これまでの実績等をチェック。自社のニーズを満たしてくれそうかどうかを判断します。
さらに、実際に対面で話をしてみて相性が合うかどうかの確認もしておくことが大事です。

ビジネスを始めるために会社を立ち上げる場合、「定款」を作成することになります。定款は会社にとって非常に重要な存在であり、そこに記載する内容に関して慎重に検討していく必要があります。
よく「定款の作成が必要」と言われているものの、なぜ必要なのか、なぜ定款は重要なのかと疑問を抱いている方もいるかもしれません。そのような方に向けて、ここでは定款の重要性や存在意義、そしてその内容として定めるべき事項についても解説をしていきます。

定款の重要性

定款は会社のルールブックとして機能するものですが、就業規則などよりも根本的な原則を取りまとめたものであり、会社にとっての憲法とも表現されるほど重要な存在です。

そもそも法令上、定款を作成しなければ会社を設立することができませんので、定款は形式的にも大きな意味を持ちます。
また、許認可を要する事業内容を始める場合には、定款に記載する事業目的が審査の対象にもなります。そのため定款に必要な記載がないと、特定の事業に関しては行うこともできなくなるのです。

組織の在り方に関しても定款の内容次第で変わってきます。
例えば取締役会の設置や監査役の設置など、機関の設置は定款で定めることになります。設置した機関によって対外的な信用の程度や会社の機動力も変わってきますので、この点からも定款の重要性を説くことができるでしょう。

その他会社の基本情報や役員等に対する制限など、定款でしか定められない様々な事柄を必要的あるいは任意的に設けていくことになります。

定款に記載しなければならない事項(絶対的記載事項)

定款への記載が必要的な事項があります。
「絶対的記載事項」と呼ばれ、これを欠く定款は無効となります。

会社法第27条では下表にある5つの記載事項を列挙しています。

絶対的記載事項 記載内容
目的 会社として営む事業の内容を記載する。
何をする会社なのかが分かるよう記載する一方で、細かく記載しすぎると遂行できる事業内容に制約がかかってしまうため注意。
そこで、最後に「前各号に関連する一切の事業」と記載するのが通例。
許認可を取得する予定なら、申請が通るように記載する必要がある。
商号 会社の名称を記載する。
商号と本店の所在地が一致する会社は複数設立できないことに注意。
「株式会社」の文字が含まれていなければならないこと、使用できない文字・記号があることにも注意。
本店の所在地 本店の場所を記載する。
最小行政区画までで良いため、「〇丁目」や「〇番地」までは記載しないことが多い。そうすることで同じエリア内での引っ越しをしても定款の変更をする必要がなくなる。
設立に際して出資される
財産の価額又はその最低額
会社設立のために、何を、いくら出資したのかを記載する。
「金○○万円」などと記載することが多い。
現物出資の場合にはその旨記載する必要がある。
発起人の氏名又は名称及び住所 発起人に関する情報を記載する。
発起人の住所氏名に並べて、割当てられる株式の数と払込金額もまとめて記載することが多い。

発行可能株式総数も定款に記載する

「発行可能株式総数」に関しても定款に記載しましょう。

会社法第27条の絶対的記載事項として列挙はされていませんが、会社設立までに定める必要のある事項です。

特に公開会社として株式を自由に譲渡できるようにする場合、発行可能株式総数はよく考えて設定する必要があります。
「発行済株式総数」の4倍を超える発行可能株式総数を定めることは会社法で禁じられているからです。発行可能な株式数に余裕があり過ぎると、いつでも既存株式の価値を希薄化できてしまうことに由来します。

非公開会社の場合にはこのルールが適用されないため、公開会社ほどシビアに考える必要はないでしょう。

必要に応じて定款への記載が必要な事項の例(相対的記載事項)

絶対的記載事項のように定款への記載が必須とはされていませんが、“ルールとして有効に機能させるためには定款への記載が必要”とされている事項があります。
これを「相対的記載事項」と呼びます。

例えば公開会社・非公開会社を決定づける「株式の譲渡制限」は相対的記載事項です。
譲渡制限を設ける場合、「株式の譲渡をするには、取締役の承認を要する。」などと定款に記載します。取締役以外にも、株主総会や代表取締役を承認機関として定めることも可能です。
譲渡制限を設けると株式の譲渡が自由にできなくなるため、株式を使った資金調達は難しくなりますが、外部の者が経営に参画することを防ぐことができるようになります。

「役員の任期」を伸ばすことも定款への記載により実現可能です。
例えば取締役の場合、公開会社だと原則通り2年の任期に縛られるのですが、非公開会社なら最大10年まで伸ばすことができます。

現物出資をしたときは定款への記載が必要(変態設立事項)

会社を設立するとき、①現物出資や②財産引受を行ったのであればそのことを定款に記載しなければなりません。また、③発起人の報酬を定めるとき、④会社が負担する設立費用があるときにも定款への記載が必要です。

これら①~④の事項は「変態設立事項」と呼ばれています。
設立後の会社財産への影響が大きい事柄であるため、変態設立事項として区分し、特別のルールを適用しています。

例えばもっとも利用例の多い現物出資に関しては、基本的に価額の評価が正しいことにつき調査をしなければなりません。
定款には、出資した発起人の氏名(設立時に現物出資ができるのは発起人に限られる)、出資した物、その価額、割当てる株式の数を記載します。

「定款の記載方法が分からない」「自分で作成するのは不安」という方は専門家に頼んで作成を進めていくようにしましょう。

顧問税理士と相性が合わない、税理士の対応・レスポンスが遅いなどの理由で顧問税理士を変更したいと考えることもあるでしょう。そのような状況になったとき、どのようなタイミングで変更をすれば良いのでしょうか。
ここでは“顧問税理士を変更するのに適したタイミング”について、いくつか紹介していきます。

決算が終了したあと

税理士変更のタイミングとして最もおすすめなのは「決算の終了」のタイミングです。

決算日の翌日から2ヵ月以内が決算申告書類の提出締め切りです。
そのため企業・顧問税理士ともに決算業務が落ち着くのは、3月決算の企業であれば6月頃、9月決算の企業であれば12月頃です。

また、個人事業主の場合は確定申告の締め切りが3月15日のため、4月頃が決算終了し落ち着くタイミングと言えるでしょう。

決算を終えたタイミングでの顧問税理士変更であれば、新たな税理士を探す作業や引継ぎ作業に時間的な余裕が生まれます。
税理士としても、仕事の区切りとなる作業を終えた時期での変更は受け入れやすいです。

反対に、避けたいのは決算直前の時期での税理士の変更です。
期中の処理や決算に向けて準備を進めている状態での変更は、次の税理士への引継ぎ作業が大変ですし、決算直前期は繁忙期にあたるため新たに依頼する税理士に受け入れてもらえない可能性があります。
そのため、決算日前の3ヶ月間の税理士変更は避けるのがベターです。

修正申告が終了したあと

税務調査が入り、修正申告を終えたあとも変更に適したタイミングと言えます。

一般的に、税務調査は3年に一度ほどの頻度で入ります。
そのため、調査・修正申告を終えてから変更することで、次の調査時に前の税理士に確認作業をする手間を省くことができます。
また、次回以降の調査について次の税理士としっかりと対策を考えた上で挑むことができます。

反対に税務調査が入る予定があるにも関わらず税理士を変更してしまうと、税務調査に対応してくれる税理士を探す作業が大変になります。
そのため税務調査が入ることが明らかな場合は、前述した決算終了後ではなく、税務調査・修正申告を終えるまで待ったほうが良いでしょう。

閑散期(6~11月頃)

多くの税理士にとって、忙しい時期は年末調整のある12月~翌年1月、個人事業主の確定申告作業がある2月~3月、3月決算の企業の決算申告作業がある4~5月と言われています。

そのため12月~5月は繁忙期、反対に6~11月は閑散期であると言えます。
受け持つクライアントが法人か個人かどうか、税理士の人数や人員配置などにもよるため、一概に全ての税理士事務所・税理士法人がそうとは言えませんが、一般的にはこのように考えて良いでしょう。

税理士を変更するにあたって、新たに依頼する税理士への業務引継ぎには時間を要します。そのため、繁忙期の場合、手が回らないために引継ぎ作業が難しくなったり、スムーズに進まなかったりすることも多く、依頼したい税理士に断られてしまう可能性があります。

そこで12月~5月頃の繁忙期は避け、比較的落ち着いている6月~11月頃に新しい税理士に依頼するとスムーズに進むことが期待できます。

すぐに変更することのメリットも考慮して考えよう

税理士を変更したいと感じる理由は様々ですが、主な理由としては以下が挙げられます。

・対応が悪い、対応が不十分
・レスポンスが遅い
・能力・実力が足りていない
・うまくコミュニケーションが取れない
・経営者と相性が合わない
・期待する節税効果が得られない
・報酬が割に合わない

できれば上に挙げたようなタイミングで変更を行いたいところですが、無理に一定の時期を待っていたのでは業務に支障をきたす場合もあります。対応が悪かったり実力不足と感じたりする税理士の場合、決算申告作業や税務調査を任せるのも、不安に感じるでしょう。

無理に合わない税理士と契約を続ける必要もありませんので、税理士変更の検討は「税理士を変えたい」と思ったそのときから始めても良いでしょう。不満を強く感じているのであれば、思い切って変更したい旨を伝えてみましょう。

税理士を変更するには、新しい税理士との契約や、預けていた資料の回収、引継ぎ作業など、想像以上に時間を要するものです。税理士の変更を考えている場合は、ここで紹介したタイミングを参考にしながら、慎重に社内でよく検討し、信頼できる新たなパートナーと顧問契約を結びましょう。

個人事業主や副業での収入を得ている方、その他一般的な給与所得者以外は確定申告を自ら行うのが一般的です。税務署に確定申告書を提出し、これをもって所得税額を確定。納税を行うという流れに沿います。
そして確定申告をする方法には大きく「青色申告」と「白色申告」の2種があります。どちらもよく耳にするものではありますが、実際どのような違いがあるのか理解していないという方も多いのではないでしょうか。
そこで、青色申告と白色申告について理解ができるよう簡単にメリット・デメリットを挙げていこうと思います。

青色申告について

まずは青色申告についてですが、これは正規の簿記の原則に従い記帳、申告をすることを指します。青色申告をするためには特定条件を満たした形での記帳が必要ですし、前提として所定の手続を行う必要があります。

具体的なメリット・デメリットについては以下の通りです。

青色申告のメリット

青色申告を行うことのメリットを端的に言うと「納税額が下げられる」という点にあります。

青色申告のメリット
特別控除の適用 「青色申告特別控除」として、最大65万円の控除が適用できる
最大額を適用するには、複式簿記での記帳+電子申告が必要
複式簿記での記帳+電子申告以外で提出なら55万円の控除
単式簿記での記帳なら10万円の控除
専従者給与の形状 「青色申告専従者給与」として、事業主の家族や親族に対する給与を全額経費に計上することができる
損失の繰越 赤字になっても、その損失分は次年度以降3年にわたり繰越すことができる

青色申告のデメリット

青色申告を行うことのデメリットは「手続の手間が大きい」ということです。

第一に、開業届の提出が必要ですし、青色申告事業者であることを示すため「青色申告承認申請書」を税務署に提出しなければなりません。
第二に、確定申告にあたっての提出書類が確定申告書B・青色申告決算書・貸借対照表・損益計算書などと増え、各書類の作成などに時間と労力を要します。
第三に、税制上の恩恵を最大化しようとすると日常的な経理事務の負担が増す、ということが挙げられます。単式簿記であれば貸借対照表や損益計算書の作成は不要となるのですが、そうすると結局青色申告特別控除の額が10万円にしかなりません。また、専従者に対する給与を全額経費に計上するには一定時期までに「青色事業専従者給与に関する届出書」を税務署に提出しなければならず、相場を考慮した給与額の設定なども行わなければなりません。

そのため事業主自身が税制に詳しい、あるいは従業員に経理がいる、という場合でなければ本業を圧迫するおそれがあります。ただしそのような場合でも、税理士に依頼をすることで税額控除等のメリットを受けつつデメリットを最小限に留めることは可能です。

白色申告について

白色申告は、青色申告以外の確定申告の方法です。
青色申告に係る届出などをしていない場合には、白色申告を行うものとして扱われます。

白色申告であることのメリット・デメリットは以下の通りです。

白色申告のメリット

白色申告であることのメリットは、確定申告にあたって事前の届出が不要であるということ、そして確定申告の際に提出すべき書類が少なくて済むということが挙げられます。提出すべきは確定申告書と収支内訳書です。記帳方法も単式簿記で良いです。

また、青色申告ほど面倒な手続をしなくても一定の限度内で専従者給与を経費に計上することは可能です。配偶者なら86万円まで、その他の親族でも50万円までなら計上可能です。もとよりこの金額以下での給与を考えているのであれば、(専従者給与に限って言えば)青色申告である必要はないと言えます。
日常的な経理事務に関しても負担が少なくて済みます。

白色申告のデメリット

白色申告のデメリットは、青色申告のメリットの裏返しとなります。
つまり税制上の優遇措置が受けられないという点がデメリットです。青色申告特別控除の適用は納税額を大きく左右するものですし、専従者給与についても、専従者自身を非課税の枠内で納めても100万円ほどの節税効果が得られます。

確かに白色申告であれば楽に事務作業が済ませられますが、今後も継続的に確定申告を行うのであれば青色申告にしておくことが推奨されます。毎年同じ作業ですので慣れてしまえば負担は小さくなっていきますし、税理士など外部に委託をすることで手間を省くことも可能です。委託先に支払う以上の節税効果も期待できますので、一度検討してみると良いでしょう。

所得税に関わる手続として代表的なものに「確定申告」と「年末調整」があります。どちらも一般に聞き馴染みのある言葉です。しかしそれぞれの違いがよくわかっていない、具体的に何をする手続なのか知らない、という方も多いのではないでしょうか。
この記事で確定申告と年末調整について解説し、両者の違いを比較していきますので参考にしていただければと思います。

「確定申告」は自分で所得を申告すること

所得税は所得の大きさに応じて課税されるところ、各人がどれほどの所得を得ているのかを国が把握して自動的に課税されるわけではありません。

各人が所得について申告を行い、その自己申告に基づいて所得税の課税がなされているのです。これを申告納税制度と呼び、自分で所得や控除の適用などを行い、自分で納税額を計算する仕組みが採用されています。

1月1日から12月31日までの1年間を区切りとし、翌年の2月16日から3月15日に申告を行うのが基本です。計算された所得税額は確定申告書に記載し、税務署に提出して完了となります。

なお、確定申告は「青色申告」と「白色申告」の2パターンがあります。

青色申告 白色申告
・一定要件を満たす形で記帳を行っている場合の確定申告

・事前に開業届と青色申告承認申請書の提出が必要

・作成すべき帳簿、保存すべき帳簿が多いため白色に比べて申告者の負担は大きくなる

・白色申告に比べて利用できる控除制度が増える

・青色申告をする者以外がする確定申告のこと

・白色申告をするために、開業手続やその他書類の提出などは必要ない

・青色申告に比べて、申告に要する手間が少ない

・青色申告に比べて使える控除が少ないため、税制上のメリットは小さくなる

「年末調整」は源泉徴収との差額を調整すること

年末調整を理解する上では、源泉徴収についても知る必要があります。源泉徴収とは、1年間の納税額につき、従業員を雇用する会社等が給与から天引きして金銭を徴収すること言います。つまり納めるべき税を予想し、その分を先払いするための仕組みです。

しかし実際に1年間働いた結果、徴収された額がぴったり本来の納税額と一致するとは限りません。そのため本来の納税額が確定できる年末においてずれを修正することになるのです。これが年末調整です。本当の納税額より多くこれまで徴収してきたのであれば差額が還付され、逆に徴収額が少なかったのであれば差額分をさらに徴収することになります。

確定申告と年末調整を比較

確定申告と年末調整の違いを整理すると下表のようになります。

確定申告 年末調整
対象となる人 ・確定申告が必要になる人の代表例は個人事業主や年金受給者など

・従業員として働いていても、副業で所得を得ているなら確定申告が必要になる

・その他にも、株取引や不動産取引で所得を得ている人や賞金等で一時所得がある人、退職金等の所得がある人も対象

・年末調整が必要になるのは会社等に勤める従業員であって、残業や手当代などにより給与額の変動があった場合など

・寄附金控除等を利用する場合には基本的に確定申告が必要になるが、ふるさと納税に関しては5つの自治体までは一定の手続を経た上で確定申告は不要になる

手続を行う人 納税者自身

※税理士に依頼して手続をしてもらうことも可能

納税者を雇用する会社等
利用可能な控除 確定申告では右の控除に加え、さらに以下の控除も利用可能

・医療費控除

・寄附金控除

・雑損控除

以下の控除が使える

・基礎控除

・配偶者控除(および配偶者特別控除)

・扶養控除

・社会保険料控除

・障害者控除

・ひとり親控除

・勤労学生控除

・生命保険料控除

・地震保険料控除

・小規模企業共済等掛金控除

・寡婦控除

・住宅借入金等特別控除

初めて確定申告する場合、「どのような手順で行えばいいのかわからない」という方も多いのではないでしょうか。
そのような不安を抱える方に向けて、ここで確定申告の手続きの流れを4ステップに分けて解説していきます。

STEP1:必要な書類を用意する

最初のステップとして、確定申告を行うにあたって必要な書類を確認し、用意しましょう。

確定申告を行うすべての人に共通して必要なものが「確定申告書」です。

以前は確定申告書にはAとBの二種類あり、所得の種類によって提出する様式が異なりましたが、令和4年度分の申告から様式Aは廃止され、様式Bのみになりました。
そのため、これまで様式Aを使って申告していた方も令和4年度以降は様式Bを使用して申告しなければいけません。

申告書の用紙は、税務署で入手できる他、国税庁のウェブサイトからダウンロードもできます。

確定申告書を用意したら、次に、「申告する所得を証明できるもの」を用意します。
例えば、給与所得を受けている方であれば源泉徴収票、青色申告であれば青色申告決算書、白色申告であれば収支内訳書がこれに該当します。それぞれご自身の申告内容に合わせて書類を用意します。

さらに、「所得控除の適用を証明できるもの」も必要です。
社会保険料控除であれば「社会保険料控除証明書」、医療費控除であれば「医療費控除の明細書」や医療費の通知書や領収書も手元に揃えておきましょう。

また、必要に応じてその他の書類の用意が必要になるケースもあるため、事前にしっかりと確認しておきましょう。

STEP2:確定申告書を作成する

すべての書類を用意できれば、確定申告書に必要事項を記入していきます。

記入にあたっては、税務署のウェブサイトで閲覧できる「確定申告書の作成手引き」を参考にすると良いでしょう。

必要事項を全て記入し、所得金額を算出できたら確定申告書の完成です。
記入が難しい場合や、確実に正確な申告を行いたい場合などは、税理士や会計士などの専門家に依頼することも検討しましょう。

STEP3:確定申告書を税務署に提出する

確定申告書が完成したら、記入漏れはないか、添付漏れはないかなど、きちんと確認した上で提出をしましょう。

申告書の提出期限は例年3月15日ですが、異なる可能性もあるため事前に必ず確認してください。
提出方法としては以下の3通りがあります。ご自身に合った方法を選択しましょう。

方法①税務署に持参

提出方法の1つに「申告書を税務署の窓口に直接出す」という方法があります。

税務署の開庁日および開庁時間については、平日の8時30分から17時までが基本となっていますが、税務署によって異なる場合や、土曜日や日曜日にも開庁している場合があります。税務署のウェブサイト等で事前に確認することをおすすめします。

なお、確定申告の時期だと税務署は混雑している可能性があるため、時間に余裕を持って行くことが大切です。

方法②税務署に郵送

「税務署へ申告書を郵送する」という方法もあります。

税務署の窓口へ直接出向く必要がないため、時間や交通費を節約できる点がこの方法の良いところです。税務署まで距離がある方や開庁時間に行けない方にとって便利な方法と言えます。

なお、確定申告書は「信書」に当たるため、「郵便」または「信書便」で送付する必要があります。
ゆうパックやゆうメールなどでは送付できないことに注意してください。送付する際は「簡易書留」や「特定記録郵便」を利用すると、送達状況が把握できて安心です。

方法③e-Taxで申告

最後に「e-Taxを利用して電子申告する」という方法を紹介します。
国税庁のウェブサイトからe-Taxにアクセスすることで、申告書を送信できます。

申告書を印刷したり郵送手続きをしたりする手間を省けるため、手続きがスムーズに進みます。
また、自宅や事業所のどこからでも24時間手続きができるのは利点です。

ただし、e-Taxによって申告を行うは、マイナンバーカードやICカードリーダーが必要になります。この方法で申告を行いたい方は、事前に揃えておかないといけません。

なお、青色申告の場合はe-Taxによる申告をすることで「青色申告特別控除」を最大の65万円適用することができます。

青色申告で65万円控除を受けたいという方は、その他の要件も全てクリアした上でこの方法を選択することをおすすめします。前述した申告書を税務署の窓口へ提出する方法や郵送する方法では65万円控除を受けることができないため注意が必要です。

STEP4:納税または還付を受ける

確定申告によって算出された所得税を納付します。または、還付される金額がある場合には還付金を受け取ります。

納税する場合

納付する税額がある場合には、納付期限までに納付を行います。
所得税の納付期限は、確定申告の提出期限と同様、例年3月15日です。

納付方法としては、税務署や金融機関などの窓口で納付する方法や、ATMやインターネットバンキングを利用する方法、クレジットカードを利用する方法などがあります。

還付を受ける場合

還付される税額がある場合には、申告書の提出から3週間~6週間程度で還付金が振り込まれます。
ただし、申告書の内容に誤りがあった場合などは、6週間以上かかる可能性もあります。

確定申告書の「還付される税金の受取場所」という欄に記入した口座へ振り込まれます。
なお、指定できるのは申告書を提出する本人名義の口座のみであるため、記入する際は注意が必要です。

以上が、一般的な確定申告の手続きの流れです。申告する内容によっては手続きが複雑になるケースもあるため、詳細は税務署や税理士に相談すると良いです。
また、申告が初めての場合は申告書の用意や作成に時間がかかってしまう可能性もあります。時間に余裕をもって取り組みましょう。