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法人と個人事業主の4つ違いとは?開業前に知っておきたい特徴

「個人事業主」とは、自然人である1人の人間を主体とした事業形態を指します。
これに対して「法人」とは、自然人という現実に存在する人間ではなく、手続を経て作られる法律上の人格のことを指します。
どちらもビジネスを遂行する主体ですが、コストや運営方法など、様々な差異があります。この記事で、個人事業主と法人には具体的にどのような違いがあるのかをまとめていきますので、事業立ち上げの参考にしていただければと思います。

違い①:開業までの手続

法人と個人事業主、両者には開業段階から大きな違いがあります。
比較的立ち上げが簡単な個人事業主に対し、法人の場合には起業者がしないといけないことが多数に及びます。

個人事業主は開業届を提出するだけ

まずは個人事業主の立ち上げについてです。

個人事業主の場合、税務署に対して開業届(厳密には「個人事業の開業・廃業等届出書」)を出せば、最低限の手続は終了します。
負担すべき費用もありません。開業届に当人の情報や事業内容など基本的な情報を記載し、開業から1ヶ月以内にこれを提出して「これから個人事業主として活動する」旨を税務署に伝えます。

ただし、青色申告で確定申告を行いたいなど、税法上の諸制度を活用する場合には下表のように届出を行う必要があります。

提出書類 提出先 提出期限
青色申告にする 「所得税の青色申告承認申請書」 納税地の税務署 開業から2ヶ月以内

※1月1日~15日の開業なら3月15日まで

青色事業専従者給与を支払う 「青色事業専従者給与に関する届出書」
従業員に給与を支払う 「給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書」 給与支払事務所等の所在地の税務署 給与支払事務所等を設けてから1ヶ月以内

その他詳しい情報についてはこちらも参照すると良いでしょう。
国税庁「個人で事業を始めたとき/法人を設立したとき」

https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/html/07_3.htm

法人は定款・出資・登記が必要

法人の場合、「定款の作成」から「出資の履行」、そして「登記申請」などの手続を進めていなかくてはなりません。

株式会社を例に説明します。
まず発起人と呼ばれる起業者が全員で定款を作成することになります。定款は会社の根本原則であり、社名や本店の所在地、事業内容などを定めます。
発起人は1つ以上の株式を引き受けなければならず、各人出資の履行を行います。発起人だけが株式を引き受ける場合の設立手続は「発起設立」と呼ばれます。これに対して発起人以外の出資者を募る場合の設立手続は「募集設立」と呼ばれ、設立時株式の引受人を募集や引受人の出資の履行に係る手続なども発生します。
取締役などの役員を決めたあと、最後に登記申請が必要です。会社の存在を公示する制度であり、登記が完了することによって法人格は付与されます。

ざっと流れを示しましたが、各ステップでやるべきことはたくさんあります。個人事業主をスタートさせる場合に比べて大きな手間がかかるでしょう。

また、個人事業主が開業届を提出するのと同様に、法人も「法人設立届出書」を税務署に提出しなければなりません。提出期限は法人の設立後2ヶ月以内です。
その他、報酬や給与を支払う場合や青色申告で申告する場合、源泉所得税の納期の特例を受ける場合など、税法上の諸制度を活用するのであれば別途税務署に対し届出を行う必要があります。

詳しくはこちらを参照すると良いです。
国税庁「個人で事業を始めたとき/法人を設立したとき」
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/html/07_3.htm

また、必要な手続が増える分、手数料等で設立費用の負担もかかります。
設立する会社形態にもよりますが、おおむね2,30万円ほどはかかると考えておく必要があります。

違い②:ランニングコスト

法人と個人事業主では、ランニングコストにも差が出てきます。
この差は、各々課税される税目や税率が異なっていること、経費として含められる費用の幅が異なっていることに由来します。

税目と税率が違う

法人には「法人税」が課されますが、個人事業主は法人ではありませんし、事業から生じる利益は個人の収支に関わるため、「所得税」が課されます。
法人税の場合、資本金の額や所得によっても変わってきますが、最大税率が23.2%です。しかし所得税では累進課税制度が採用されており、所得が大きくなるほど適用される税率が高くなってしまいます。

最低税率は所得税の方が小さく、その他住民税との兼ね合いもあって、利益が小さなケースでは個人事業主として活動している方が税金に着目したときのランニングコストは小さくなります。
しかし利益が大きくなってくると所得税の税率が大きくなり、最大税率が小さい法人税の方がお得になってきます。そのため事業の規模が大きくなり売上や利益が相当に膨らんできたのなら、法人として活動した方がランニングコストを小さくできます。

住民税に関しても法人の方が最低額は大きいため、売上も利益も大して出ていない状況だと法人として活動する方が圧迫されてしまいます。

経費の範囲が法人だと広い

法人であっても個人事業主あっても、事業のために必要な費用は、基本的にすべて経費として計上できます。

家賃や水道光熱費、通信費、自動車代、ガソリン代、駐車場代、その他様々な費用が経費として計上できます。経費として計上できるということは売上から控除できる額が増えるため、課税所得を小さくできます。結果として納税額を低く抑えることに繋がるのです。
そのため同じ支出が生じているのなら、できるだけ経費計上できた方がランニングコストは下げられることになります。

この点、法人の方が有利とされています。
法人の方が広く経費に含めることができるからです。例えば個人事業主の場合、自身の収入を経費計上することはできません。これに対し法人だと給与所得として経費に計上させられます。賞与、退職金についても経費計上ができるため、仕組みを理解して上手く設計すれば大きな節税効果が得られるでしょう。

ただし事業に関連があるからといって何でもかんでも経費として計上していると税務署から指摘を受ける可能性があります。法令に抵触してはいけませんし、脱税の疑いをかけられないよう、節税対策を講ずるときは税理士に相談してから取り組むようにしましょう。

違い③:社会的信用

社会的な信用は個人事業主よりも法人の方があると考えられています。

個人事業主でも信用がないわけではありませんし、昨今フリーランスが増えており珍しい存在でもなくなっています。そのため業界や業種によってはあまり気にしなくても良いかもしれません。

とはいえ規模の大きな取引を行う場合や企業の重大な情報を取り扱う仕事の場合、社会的な信用の有無が取引成立に大きく影響してきます。
法人の場合厳格な手続を経て設立されていますし、事業が安定しているとの評価も受けやすいです。そのため比較的信用を獲得しやすく、大きな取引を始めるのに適しているといえるでしょう。金融機関からの融資も受けやすくなり、その資金により大きな事業もスタートさせやすくなります。

違い④:運営方法

法人と個人事業主には、運営の方法にも大きな差があります。

意思決定の方法

個人事業主の場合、従業員がいることもありますが、意思決定は個人事業主が行います。自分の判断で、自分の好きなように決断して運営していくことが可能です。

これに対して法人の場合、意思決定をするにも所定の手続を行わなければならないなど、自由度の面で劣ります。個人事業主ほど迅速な意思決定をするのも難しくなります。
例えば株式会社だと取締役間で協議を行い、議事録を作成するなどの手間もかかります。より重大な決断をする場合には株主総会を開いて株主の同意を得ないといけません。

さらに、意思決定の影響を受けて定款の変更手続や登記申請の手続が必要になることもあります。

社会保険加入の義務

個人事業主だと国民年金に加入するケースが多いですが、法人だと厚生年金に加入します。厚生年金の保険料は国民年金の保険料より高いのが一般的ですが、その分将来の年金は多くなります。

個人事業主でも従業員を雇ったときには社会保険への加入をすることになりますが、常時5人に満たない人数しかいないときには加入が義務とはなりません。
しかし法人ではすべての役員および従業員に社会保険への加入が義務付けられています。

経理事務の内容

法人も個人事業主も、経理事務は発生します。
しかし記帳や税務申告、給与計算等に係る経理事務の負担は個人事業主の方が小さい傾向にあり、会計ソフトを利用して簡単に申告書が作成できることもあります。

これに対して法人に係る経理事務は複雑で、税理士に依頼して対応するケースが多いです。
税理士に依頼する事務の範囲が広いほど依頼費用も高くつきますが、その分事務の効率が向上し、本業に専念しやすくなります。また、日常的に会社の状況を把握してもらうことでより的確な税務上のアドバイスを受けることができますし、資金繰りやその他財務に係るアドバイスも受けられるようになり、高い費用対効果が期待できます。