後藤允良税理士事務所 > 税務に関する記事一覧 > 会社設立で資本金を決める際着目するポイント4選! 資本金で変わる節税効果も紹介
会社を設立する際の重要な決定事項の一つに「資本金額の決定」があります。
この金額はどのように決定すべきかご存知でしょうか。実は設立する会社によって考慮すべきポイントは異なっており、特に慎重になるべきケースと比較的緩やかに考えても良いケースとがあります。
以下では、設立時の資本金額設定において着目すべきポイントについて解説していきます。
まず基本となるルールについて理解しておきましょう。
大前提として、会社にとって資本金の設定は必須です。登記事項でもありますし、会社設立を考えている方が、資本金については考えない、あるいは資本金は設定しないという選択肢は取り得ません。
ただ会社法にて、一般に「資本金額は〇〇円以上必要」などと定められているわけでもありません。そのため他のルールは無視して会社設立のみに着目した場合、資本金は1円でも良いと言えます(旧制度では原則として300万円以上の資本金が求められていた)。
なお、資本金が1円でも良いという言葉の意味は、厳密には「出資の最低額が1円」であるということです。設立に際して株主が払い込み・給付をした財産の額が資本金額とされる旨会社法第445条1項に規定されています。
(資本金の額及び準備金の額)
第四百四十五条 株式会社の資本金の額は、この法律に別段の定めがある場合を除き、設立又は株式の発行に際して株主となる者が当該株式会社に対して払込み又は給付をした財産の額とする。
上の通り基本的には何円にしても良いのですが、この金額が大きく影響を及ぼす事柄もあります。そこで、主に以下4つのポイントから考えていくと良いでしょう。
ポイントの1つであり、その中でも最も重要なのが「事業の許認可を得るための要件を満たせるかどうか」です。
事業の内容によっては法令上許認可を得ることが求められている分野があり、資本金額が一定以上なければならないケースがあります。
そのため許認可を要する事業を行う予定なのであれば、その要件に資本金が指定されていないかどうかをまずはチェックすべきです。
このポイントに関しては、他のポイントと異なり必ず考慮しないといけません。
例えば以下のように業種ごとの基準が設けられています。
法改正などにより変動する可能性がありますし、同じ業種の中でも細かく分類がなされ、それぞれに満たすべき資本金額が異なることもあります。そのため各許認可に対し事前に最新情報を確認しておくべきです。
設立後の事業内容によっては設備を備える必要がありますし、設備投資やその後の運転資金が多く必要である場合には、資金不足に陥らないようある程度の資本金を備えておく必要があります。
そこでこれら初期費用が大きいと予想される場合には、その分も見越した資本金額を設定した方が良いでしょう。
なお、その初期費用分すべてを資本金としてカバーする必要はありませんので、借入金なども併せて検討すると良いです。
また、それほど大きな金額ではありませんが、資本金は設立費用にも影響します。
例えば株式会社の設立費用としては、定款に貼付する印紙代や認証の手数料などが発生するほか、資本金の額に応じた登録免許税や株式払込事務取扱手数料なども発生します。
資本金は会社の基本情報としてWebサイト上でも掲載することが多く、取引先や一般の方も見る機会が多いです。
そのため、会社の見栄えや信用問題に関わる可能性があります。昔ほど資本金の額が信用と比例するわけではありませんが、極端に少ないと良くない印象を持つ人もいます。
また会社債権者にとっては、資本金の大きさが取引に際しての担保に近い形で機能することになるため、営業をスムーズにする上でも一種の指標になると考えられます。
とはいえ無理に資本金額を大きくする必要性はありませんし、後述の課税の問題なども生じるためバランスを考える必要があります。そこで同業者や同じ業界内での相場を参考にしましょう。
業界問わずよくある資本金の額としては「100万円」「300万円」「500万円」が挙げられます。運転資金が必要なく、単に法人格を得る目的で会社設立したというケースでは「10万円」に設定することも珍しくありません。
資本金の大きさによって課税の程度も変わります。
そのため節税効果も考慮して金額を決めると良いでしょう。
傾向としては資本金額が小さいほど税制上の優遇措置が受けられますので、許認可等の考慮をする必要がないのであれば、多くの優遇措置が適用される基準内で設定すると効果的です。
細かくは次項で説明しますが、節税の効果が大きく変わる境目は1,000万円です。「1,000万円未満かどうか」によっていくつかの課税内容が変わってきますので、節税の観点から言えば意味なく1,000万円に設定することは避けるべきでしょう。
資本金が影響する税金は「法人税」「消費税」「法人住民税の均等割」です。
法人税は課税所得に応じて決まるのですが、資本金が1億円以下の法人であれば、「課税所得800万円分まで軽減税率の適用」を受けることができます。
※資本金5億円以上の親会社を持ち、その100%子会社に対しては適用なし
詳しくはこちらを参照
また法人税に関連するものとして、交通費等の損金算入可否についても触れておきましょう。
ここで言う「交際費等」とは、交際費や接待費などの費用であって、「法人が取引先や仕入先その他事業上の関係性を有する者に贈答や接待、慰安、これらに類する行為をするために支出したもの」を意味します。
この交際費等についてどこまでを損金として算入できるのか、細かくルールが定められています。原則として全額が損金不算入の扱いを受けるのですが、資本金が1億円以下であれば、「交際費等800万円までを損金算入できる」という措置が取られています。
詳しくはこちらを参照
国税庁「No.5265 交際費等の範囲と損金不算入額の計算」
消費税に関しては、特例として、新設法人について資本金1,000万円であれば設立後2年間は免税されます。
なお、1年目上半期の売上が1,000万円を超える場合などには2年目から課税される可能性はあります。
詳しくはこちらを参照
国税庁「No.6503 基準期間がない法人の納税義務の免除の特例」
法人住民税は「法人税割」と「均等割」の2つから構成されています。
法人税割は、法人税額を基準に算定するもので、売上が大きい企業ほど課税額が大きくなる傾向にあります。
これに対し均等割は資本金等を基準に算定するもので、さらに「都道府県民税」と「市町村民税」の枠に分かれます。資本金や従業員数に応じて、下表のように段階的に納税額が決められています。
資本金等の額 | 都道府県民税 |
市町村民税 (従業者~50人) |
市町村民税
(従業者50人超) |
---|---|---|---|
~1,000万円 | 2万円 | 5万円 | 12万円 |
~1億円 | 5万円 | 13万円 | 15万円 |
~10億円 | 13万円 | 16万円 | 40万円 |
~50億円 | 54万円 | 41万円 | 175万円 |
50億円超 | 80万円 | 41万円 | 300万円 |
詳しくはこちらを参照
資本金は基本的に自由に決定しても良いのですが、節税や運転資金のことなども考慮して、バランス良く設定することが大事です。
また当然、許認可を得て事業をしようとしているのであれば最低基準をクリアしなければなりません。
さらに、取引先等が見たときに不安を抱くような極端に低い金額も避けた方が無難です。
会社設立にあたっての資本金の要件は撤廃され、今では信用を得るためにかつてほど重要なものとは捉えられていませんが、老舗企業や大企業との取引を始めようとするのであればある程度の金額は用意したほうが良いでしょう。
節税の効果を高めようと考えるのであれば、税理士に相談して、最も効果的な金額設定を考えていくことがおすすめです。